店舗のフリーWi-Fi整備、eSIM時代の判断軸 — 観光客の不満は12年前の3分の1に

ルカム ジョスラン

ルカム ジョスラン

Utsubo代表 / Kokopon創業者

2026年5月27日·15分で読めます
店舗のフリーWi-Fi整備、eSIM時代の判断軸 — 観光客の不満は12年前の3分の1に

「Wi-Fiは必須」が、静かに変わりつつあります

京都・東山の路面店で、小さなカフェを営む店主の方とお話していた時のことです。「2017年にインバウンド対策で光回線を引いて、月5,500円払ってきた。でも最近、お客様がほとんど使っていない気がする」と言われました。

調べてみると、観光庁が毎年実施している「訪日外国人旅行者の受入環境に関する調査」で、興味深い変化が起きていました。外国人観光客がフリーWi-Fi環境に「困った」と答えた割合は、2016年の28.7%から2019年に11%、2023年には9.6%、そして2024-25年の最新調査では、ついに「困ったことトップ5」の圏外まで減少しています(観光庁 報道発表 2025)。

12年で約3分の1。観光庁自身も「フリーWi-Fi等通信環境については『困った』の割合は減少となった」と書いています。「観光客向けに整える」の代表格だったフリーWi-Fiは、今、判断軸を持って整える/やめるを決める段階に来ています。

今すぐの1分タスク

自店のGoogleビジネスプロフィール(GBP)の「無料Wi-Fi」属性を、実態と一致させてください。Wi-Fiがある店はオン、ない店はオフ。

GBP管理画面で「プロフィールを編集」→「その他」→「アメニティ」から3タップで変更できます。

「実態と違う設定」は、観光客の信頼を一度で失う原因になります。

なぜ「やる/やらない」を判断する話に変わったのか(30秒で)

理由は2つあります。

ひとつは、観光客側がeSIMで日本到着前から既に通信を持っている割合が増えたこと。Juniper Researchによると、世界のtravel eSIM利用者は2024年の7,000万人から2030年には2.8億人まで4倍化する見通しです(TechRadar 2025)。Holaflyは累計1,500万eSIMを販売し、日本は同社の利用者にとって訪問先#3の国です(Holafly 2025)。

もうひとつは、観光庁データに表れたとおり、観光客自身が「Wi-Fiがなくて困る」体験をしなくなったこと。今や旅行者は、空港で買ったeSIMで地下鉄からカフェまでつながったまま動いています。

つまり「Wi-Fiを整えれば必ず満足度が上がる」だった時代が終わり、「客層と滞在時間で要否を判断する」フェーズに来ました。

観光客のWi-Fi不満、12年でこう変わった

調査年度フリーWi-Fiに「困った」割合
2016年(平成28年度)28.7%
2019年(令和元年度)11%
2023年(令和5年度)9.6%
2024-25年最新トップ5の項目から消失

出典:観光庁「訪日外国人旅行者の受入環境に関する調査結果」(2024年公表2025年公表

2024-25年の最新調査では、観光客の「困ったこと」上位は「ごみ箱が少ない」(21.9%)「言語コミュニケーション」(15.2%)「混雑」(13.1%)「入国手続き」(8.6%)でした。フリーWi-Fiはこのトップ4にも、続く5位にも入っていません。

一方で、観光庁の同じ調査で「日本滞在中、ほとんど困ったことはなかった」と答えた割合は51.1%まで上昇しています。前回調査から+21.4ポイントの大きな改善です。

フリーWi-Fiがまだ効く 4つのシーン

ただし「もう要らない」と一律で結論づけるのは早計です。次の4つのシーンでは、フリーWi-Fiは今も明確に効きます。

1. 長居カフェ・喫茶(滞在60分以上)

カフェで2〜3時間過ごす観光客は、SNS投稿・写真共有・翻訳アプリ・地図検索を頻繁に使います。eSIMでもつながりますが、データ容量を気にする旅行者は、Wi-Fiがあれば優先して接続します。

カフェ業態では、Wi-Fiの有無が「滞在時間」を伸ばす要素として今も機能しており、結果として客単価につながる傾向があります。

2. グループ旅行で「1人だけeSIM」のパターン

3〜4人の家族・友人グループで来店した時、eSIMを設定しているのは多くの場合1人だけ、というケースがよく観察されます。残りの人は、Wi-Fiがあれば接続したい層です。

「ご家族の他の方もどうぞ使ってください」と一言添えるだけで、グループ全体の体験が変わります。

3. 高齢層と家族層(eSIMの設定が難しい層)

eSIM設定はスマホのモバイル通信設定からQRコードを読み取って行う作業で、ITに慣れていない高齢者にはハードルが高めです。家族旅行で祖父母世代が同行している場合、その方たちはWi-Fiがないとオフライン状態になりがちです。

家族層が多い店(観光地のファミリーレストラン・郊外のカフェ・地方の物産店など)では、Wi-Fiは今もしっかり使われます。

4. 翻訳アプリ依存の店内コミュニケーション

英語メニューがなく、店主の方が翻訳アプリ(Google翻訳・DeepL・PocketTalk)で接客するスタイルの店では、店側もアプリを使うため、Wi-Fiは「お客様用」だけでなく店主側のインフラとしても価値が高いままです。

フリーWi-Fiを入れなくていい 4つのパターン

逆に、次の4つのパターンに当てはまる店では、フリーWi-Fiを「整えない」「やめる」判断も合理的です。

1. 回転率重視・滞在15分以下の業態

券売機ラーメン・立ち食い蕎麦・ファストフードなど、滞在時間が短い業態では、観光客もWi-Fiを接続するメリットが薄いです。eSIMで十分まかなえます。

2. 客層が既にeSIM普及層中心(20-30代の欧米個人旅行)

客層が欧米・オセアニア・シンガポール・香港の20-30代個人旅行者中心の店では、eSIMの普及率が高く、Wi-Fiを必要としない層が多くを占めます。

3. 通信費が固定費を圧迫している(月商比1%超)

月商50万円の店で月5,000円のWi-Fi契約は月商比1%です。賃料・水光熱費・原価率の中で、Wi-Fi通信費の優先順位が低いなら、撤去や最小プランへの切替を検討する余地があります。

4. 既設Wi-Fiの月平均接続数が5台/日未満

ルーターの管理画面で過去1〜3か月の接続デバイス数を確認できます。1日平均5台を下回っているなら、「実態として使われていないWi-Fi」に毎月固定費を払っている状態です。

GBP「無料Wi-Fi」属性は、設置の話とは別物

ここで注意したいのが、GBPの「無料Wi-Fi」属性の扱いです。

属性は、観光客がGoogleマップで「Wi-Fiあり」で絞り込み検索した時にヒットさせるための信号であって、ランキングを直接押し上げる効果はありません(Google公式ヘルプ)。

判断軸はシンプルです。

  • Wi-Fiを設置している店 → 必ずオンにする(フィルター検索でご近所のWi-Fi利用層に見つけてもらえる)
  • Wi-Fiを設置していない店 → オフのままにする(虚偽記載はGoogleポリシー違反)

「あったほうが集客につながりそうだから、なくてもオンにしておこう」は禁物です。来店した観光客が「Wi-Fiパスワードください」と聞いた時に「実はないんです」と答える瞬間が、信頼を失う一番大きな場面になります。

個人店向けのコスト感

実際にWi-Fiを新規導入する/維持する場合、現実的なコストレンジは次のとおりです。

構成初期費用月額備考
光回線新規+家庭用ルーター工事費1〜4万円3,500〜5,500円業務用と分けて契約
既設光回線+ゲスト分離ルーター追加ルーター1〜3万円実質ゼロ円増コスパ最良の選択肢
ポケットWi-Fi専用契約端末0〜1万円3,500〜5,000円同時接続数の上限に注意
自治体の公衆無線LAN提携0円0円観光案内所経由で「Free Wi-Fi」ステッカー配布の自治体あり

例:既に店舗用のNTT光回線を引いている飲食店なら、メーカー製ルーター(バッファロー・NEC・I-Oデータなどの1万円台モデル)に変えて、SSIDを2つ(業務用+ゲスト用)に分けるだけで、お客様用Wi-Fiが追加できます。月額追加はほぼゼロ。

新規でWi-Fiのためだけに光回線を引くより、業務用回線がある店は「分離ルーター追加」の道が圧倒的に現実的です。

やってはいけない 3つのこと

  • SSIDに電話番号や住所を入れる。SSIDは周辺の端末から見えるため、店主の個人情報が周辺に公開された状態になります。店名+「-Guest」などの形が安全です。
  • パスワードを口頭で都度伝える。混雑時のオペレーションを圧迫します。テーブルPOPか会計台のスタンドにSSIDとパスワードを書いて掲示するのが定番です。
  • 業務用回線とお客様用Wi-Fiを共用する。POS・予約システム・店主の業務PCに、技術的にお客様端末からアクセス可能な状態が生まれます。ルーターのゲストネットワーク機能で分離するだけで防げます。

続けるコツ

設置している店は、月1回スピードテストを実行する習慣だけ作ってください。お客様の端末視点で速度が出ているか(目安:下り20Mbps以上)を確認すると、「ある」だけで「使えない」状態を避けられます。

観光地の店なら、自治体観光協会や観光案内所が無料で配布している「Free Wi-Fi」ステッカーを入口や窓に貼るのも、視覚シグナルとして効きます。

撤去判断をした店は、ルーター・回線解約・属性オフの3つを同じ週にまとめて実行すると、運用負荷の引き継ぎが起きません。

今週試すこと

  • GBPの「無料Wi-Fi」属性が実態と一致しているか確認(設置あり→オン、なし→オフ)
  • (設置済の場合)ルーターの管理画面で過去30日の接続デバイス数を確認
  • (未設置で検討中の場合)自店の客層・滞在時間・月商比通信費の3つで本記事の判断軸表に照らす
  • (設置済の場合)業務用SSIDとお客様用SSIDが分離されているか確認、未分離ならルーター設定を変更

Kokoponは、観光客向けの整え方を「やらないことを決める」も含めた判断軸として整理する小規模店舗のコーチです。GBP属性・写真・口コミ返信・多言語対応など、複数の整え方をひとつのリズムで回すサポートをしています。詳しくはトップページからご覧ください。

参考

よくある質問

eSIMが普及した今、本当にフリーWi-Fiは要らないんですか?
一律で「要らない」とは言えません。観光庁の最新調査でWi-Fi不満は12年前の3分の1まで減りましたが、長居カフェ・グループ旅行で1人だけeSIM・eSIM設定が難しい高齢家族層・店内コミュニケーションで翻訳アプリを使う場面の4シーンでは今も効きます。自店の客層と滞在時間で判断する話になります。
GBPの「無料Wi-Fi」属性は、実際にWi-Fiがなくてもオンにしていいですか?
いいえ。実態と異なる属性設定はGoogleのポリシー違反扱いで、悪質な場合プロフィール停止のリスクもあります。Wi-Fiがない店はオフのままにします。属性はランキングを直接押し上げる効果はありませんが、観光客が「Wi-Fiあり」でフィルター検索した時にヒットするため、設置している店は必ずオンに設定します。
個人店でフリーWi-Fiを入れる場合、月いくらかかりますか?
光回線3,500〜5,500円+ルーター初期1万〜3万円が目安です。既に業務用の光回線(POS・予約システム・店主用)が引かれているなら、ゲスト分離機能付きのルーターを追加するだけで月額負担はほぼ増えません。ポケットWi-Fi専用契約は月3,500〜5,000円ですが、観光客の同時接続数が多いと速度が出にくい点に注意が必要です。
既にWi-Fiを設置していますが、最近ほとんど誰も使っていない気がします。やめてもいいですか?
ルーターの管理画面で過去1か月の接続数を確認してください。1日あたり平均5台未満なら、撤去判断の材料になります。ただし「観光客が来た時の翻訳アプリ用」「予約システムのバックアップ」など、見えにくい用途で動いている場合もあります。完全撤去ではなく、契約プランを最小構成に落とす選択肢もあります。
お客様にパスワードを聞かれた時、どう伝えればいいですか?
テーブルや会計台にSSIDとパスワードを書いたPOPを置くのが定番です。口頭で都度伝えるとオペレーション負荷が上がるため避けます。SSIDに店名を入れるとお客様が見つけやすくなりますが、電話番号や住所など個人情報は含めないようにしてください。
業務用のWi-Fiとお客様用のWi-Fi、分けるべきですか?
分けてください。同一回線だとPOS・予約システム・店主の業務PCに、お客様の端末から技術的にアクセス可能な状態が生まれます。ほとんどのルーターには「ゲストネットワーク」機能があり、SSIDを2つに分けるだけで業務用と来客用を分離できます。設定は5〜10分で完了します。

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