観光客向けの「二重価格」を考える前に — 料金の見せ方で炎上を防ぐ(2026版)

姫路城も博物館も「二重価格」、うちもやるべき?
奈良の路地裏で、12席の小さな定食屋を営むお店があります。昼の客の半分近くが観光客になり、ある日、常連の方から「姫路城が外国人だけ高くするらしいね、おたくもやれば?」と言われた、という話を聞きました。
ニュースでは、姫路城が市民1,000円・市民以外2,500円という案を進め、国立博物館の一部も一般料金の2〜3倍を検討している、と報じられています(2026年)。円安と記録的な訪日客のなかで、「観光客には高くてもいい」という空気が、確かに広がっています。
ただ、ここで立ち止まりたいことがあります。姫路城や博物館と、路地裏の定食屋では、同じ「二重価格」でも背負うリスクの重さが違います。大型施設は多少たたかれても来館者が途切れませんが、12席の個人店は、Googleの星がひとつ崩れると客足に直結します。
この記事では、二重価格は合法なのか、個人店が追随すべきか、そして値上げを考える前にできる「料金の見せ方」までを、順番に整理します。結論を先に言うと、多くの小さな店にとっての答えは「外国人だから高く」ではなく、透明な料金表示と、説明できる価格差です。
今すぐの1分タスク
自店のメニューを1枚、観光客の目で見直してみてください。「税込の総額か」「1人あたりか1皿か」「お通しやサービス料が先に書いてあるか」——この3つが読み取れますか。
もし1つでも「書いていない」があれば、それは価格を上げる前に直せる、料金トラブルの芽です。
そもそも二重価格は合法なのか(30秒で)
結論から言うと、日本で二重価格そのものは違法ではないとされています。お客様の属性によって価格を変えて表示すること自体は、景品表示法で一律に禁じられているわけではありません。
ただし、実務では次の3つが前提になります。
- 価格差に妥当な根拠があること。理由なく観光客にだけ上乗せする価格は、景品表示法上の不当表示として問題になり得ます。
- 価格を明示すること。いくらなのかが事前にわかる形で表示されている必要があります。
- 入店拒否やサービスの差別をしないこと。価格を変えても、提供する料理やサービスの中身で差別はできません。
渋谷の海鮮食べ放題店のように、日本在住者5,478円・観光客6,578円という形で、「外国人客への案内や対応にかかる追加の人件費」を価格差の根拠として説明している例もあります。逆に言えば、根拠を説明できない価格差は、合法か以前に、炎上のリスクを抱えるということです。
注:ここでの説明は一般的な整理です。実際の価格設定は、自店の業態や表示方法によって判断が変わるため、心配な場合は専門家に確認してください。
大型施設と個人店では「炎上したときの重さ」が違う
二重価格の議論で見落とされやすいのが、この非対称性です。
姫路城や国立博物館は、SNSで「外国人価格は不公平だ」と話題になっても、世界遺産という目的地そのものの価値が揺らぐわけではありません。批判があっても、翌週も入館者は並びます。
一方、ご近所の小さな店は違います。個人店の集客は、Googleマップの星とクチコミにぶら下がっています。「Japanese price と tourist price が違った」「説明もなく高かった」という★1のクチコミが数件並ぶと、それを読んだ次の観光客は、店の前まで来ても別の店を選びます。大型施設なら誤差で済むダメージが、個人店では客足の数字になって返ってきます。
だからこそ、個人店が二重価格を考えるときの問いは、「合法か」だけでなく、「これは、説明なしで読まれても炎上しない形か」です。価格を上げる判断より、料金の見せ方をどう設計するかの方が、個人店にとっては重い意思決定になります。
「外国人だから高い」はリスク、「住民割引」と「付加価値」は説明できる
価格差を設けるなら、何を理由にするかで印象が大きく変わります。荒れやすいのは「外国人だから高い」という国籍を理由にした形です。荒れにくいのは、次の2つです。
- 住民割引型:定価を基準にして、日本在住の方に「地元割引」を出す形。基準は「住んでいる場所」なので、観光客を狙い撃ちにした印象になりにくく、地元のリピーターへの感謝という前向きな意味も持たせられます。姫路城も、当初の「インバウンド向け」案への批判を受けて「地域住民価格」という形に調整した経緯があります。
- 付加価値型:観光客向けに、特別な食材や体験、英語の解説や少量多皿のセットなどを含んだ「スペシャルメニュー」を別価格で用意する形。価格差の理由が「中身の違い」になるため、納得を得やすくなります。
どちらも、価格差の根拠が「住んでいる場所」や「含まれる中身」であって、国籍そのものではない、という点が共通しています。理由が説明できる価格差は、理由が説明できない価格差より、ずっと荒れにくいのです。
料金で星1をつけられないための「見せ方」5つ
ここが、多くの個人店にとって値上げより先に効く部分です。料金そのものより、料金の伝わり方でクチコミは荒れます。次の5つを、所要35分ほどで整えられます。
- 総額(税込)で表示する(所要5分)。税抜表記やサービス料別は、会計時の不意打ちになります。最初から込みの金額を見せます。
- 「1人あたり」か「1皿」かを明記する(所要5分)。コースや食べ放題は1人あたりの総額を先頭に。シェア前提の皿は「2〜3人分」と添えます。
- お通し・サービス料・チャージを事前に書く(所要5分)。「お通し300円」「サービス料10%」を、席に着く前にわかる場所と英語1行で。海外の方にお通し文化は伝わりにくいため、ここは特に効きます。
- 価格差を出すなら理由を多言語で添える(所要15分)。住民割引や付加価値セットの根拠を、英語・中国語など主要言語で1〜2文だけ。理由が読める価格差は、読めない価格差より納得されます。
- Googleビジネスプロフィールの価格帯と写真に反映する(所要10分)。ナレッジパネルの価格帯属性とメニュー写真を、店頭の実態と一致させます。
価格表示の整え方は、着物レンタル店の料金表示をGoogleビジネスプロフィールで伝える方法 でも具体的に扱っています。料金が来店前に読める状態は、それだけで「思っていたより高い」という★1を減らします。
やってはいけない3パターン
- 国籍を入口で判定する。「外国人ですか?」と尋ねて価格を変える運用は、差別と受け取られやすく、最も炎上します。基準にするなら「居住地」や「メニューの中身」にします。
- 会計時に初めて追加料金が出てくる。お通し、サービス料、観光地チャージなどを席に着いてから知らせるのは、金額の大小に関係なく不信感につながります。事前表示を徹底します。
- 価格差の理由をどこにも書かない。たとえ正当な根拠があっても、書いていなければ「外国人だから高い」と解釈されます。理由は必ず、読める場所に多言語で添えます。
観光庁のガイドライン(2027年予定)を待つ間にできること
二重価格をめぐっては、観光庁が有識者会議を立ち上げ、2027年3月までに全国的な方針(ガイドライン)を示す予定とされています(2026年時点)。今は、ルールが固まりきっていない過渡期です。
ただ、ガイドラインを待つ必要はありません。透明な価格表示と、説明できる価格差という基本は、どんな方針が出ても変わらないからです。いま整えるべきは、価格そのものより料金の見せ方です。ここを先に固めておけば、将来ガイドラインが出たときも、価格差を足すか引くかの調整だけで済みます。
逆に、見せ方が雑なまま価格だけ上げてしまうと、ガイドライン以前に、目の前のクチコミで足をすくわれます。
続けるコツ:価格より「納得感」を四半期で見直す
料金の見せ方が効いているかは、クチコミに表れます。四半期に1回、直近のGoogleクチコミを「料金」の観点だけで読み返してみてください。所要15分ほどです。
「高いけど納得」「説明があってよかった」という声が増えていれば、見せ方は機能しています。「説明がなかった」「会計で驚いた」が混じっていれば、価格を下げるより先に、表示を直すサインです。料金に関する★1がついたときの考え方は、Googleの悪いクチコミがついた時の3ステップ対応 も参考になります。
見直すのは、価格の数字より「納得感」です。同じ金額でも、伝わり方しだいで★1にも★5にもなります。
今週試すこと
- メニューを総額(税込)表示にそろえる
- 「1人あたり」か「1皿」か、お通し・サービス料を事前に明記する
- 価格差を設けているなら、その理由を英語1行で添える
- Googleビジネスプロフィールの価格帯とメニュー写真を実態に合わせる
Kokoponは、海外からの観光客に選ばれる小さなお店のための、Googleビジネスプロフィール・Instagram・LINE公式アカウントの多言語運用を1つにまとめるサービスです。料金や込みの内容を、観光客に伝わる形でそろえて発信する役割を目指しています。詳しくはトップページからご覧ください。
参考
よくある質問
- 外国人観光客に高い料金を設定するのは違法ですか?
- 違法ではないとされています。消費者の属性で価格を変えること自体は景品表示法で禁じられていませんが、価格差には妥当な根拠(説明できる理由)が必要で、価格を明示すること、入店拒否やサービス内容の差別をしないことが前提になります。根拠のない上乗せや、表示と実態が違う価格は問題になり得ます。
- 二重価格を入れるとGoogleの口コミが荒れないか心配です
- 「外国人だから高い」と受け取られると荒れやすいのが実情です。荒れにくいのは、定価に対して日本在住者へ「地元割引」を出す形か、特別な食材・サービスを含む観光客向けセットを別価格で用意する形です。いずれも価格差の理由を英語などで明示した店ほど、納得されやすい傾向が観察されています。
- 小さな飲食店でも二重価格を導入すべきですか?
- 必須ではありません。大型施設と違い、個人店は1件の炎上が評価に直結します。多くの個人店は値上げより、総額(税込)・1人あたりか1皿か・お通しやサービス料の有無を明確に見せる方が、料金トラブルそのものを減らせます。
- 二重価格の安全なやり方はありますか?
- 現実的なのは2つです。1つは定価を基準にして日本在住者へ「地元割引」を出す方法、もう1つは特別な食材や体験を含む観光客向けセットを別価格で用意する方法です。どちらも「住んでいる場所」や「中身の違い」が根拠なので、国籍だけを理由にするより説明しやすくなります。
- 観光庁の二重価格ガイドラインはいつ出ますか?
- 観光庁は有識者会議を経て、2027年3月までに方針を示す予定とされています(2026年時点)。それまでの間も、透明な価格表示と、説明できる価格差の根拠という基本は変わりません。ガイドラインを待たずに、料金の見せ方から整えられます。
- メニューの料金はどう表示すれば観光客に伝わりますか?
- 総額(税込)で出す、1人あたりか1皿かを書く、お通し・サービス料・チャージを事前に明記する、の3点が基本です。さらにGoogleビジネスプロフィールの価格帯やメニュー写真にも反映すると、来店前に料金感が伝わり、会計時の「思っていたより高い」を減らせます。






